運営方針について
心臓並びに血管病に対して先端医療が行えるように、専門の循環器内科医師、心臓血管外科医師をはじめ、専門の看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学士、理学療法士が協力し合って診断と治療に当たります。
また、設備としては、生理検査室(心臓超音波装置、トレッドミル運動負荷装置、ホルター心電図)、冠動脈CT装置、心臓核医学検査装置、心臓病専用集中治療室、心臓血管造影装置、心臓血管外科手術室、心臓リハビリテーション室が備えられています。

手術症例数について
宮崎市郡医師会病院・心臓血管外科では、心臓と大血管(大動脈)および末梢血管疾患に対して、年間200〜250症例の手術を行なっています(図1)。
社会の高齢化に伴い、緊急手術を必要とする患者さんや併存疾患をお持ちの患者さんが増加しており、地域を一施設でカバーすることは不可能です。特に心臓血管疾患は生命に直結することが多いため、当院では宮崎大学病院や県立宮崎病院、県立延岡病院とも緊密に連携をとりながら、日々の診療を行っています。おもな対象疾患は、心臓弁膜症、虚血性心臓病、大動脈瘤などです。このうち弁膜症、狭心症、胸部大動脈瘤など、胸部を切開する手術数は年間120-180症例(図2)、それ以外の、腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術や末梢血管手術、および血管内ステント治療の手術数は年間60〜100症例となっております(図3)。
人工心肺について

多くの心臓手術は心臓を停止させて行います。心停止中に臓器の血流を維持するのが人工心肺です。人工心肺はこの絵の様に、静脈から抜き取った酸素の少ない血液に酸素を付加し、動脈に送り込む装置です(人工心肺の原理)。
A.心臓弁膜症
心臓内部には"弁"があり、血液の流入と流出を制御しています。弁の異常は心臓の機能低下を招くため、手術が必要になることがあります。手術の目的は、1.息切れやむくみなどを改善し日常生活が支障なく行える様にすること、2.生命予後を改善すること、そして、3.心臓が原因となる突然死の予防です。

1.僧帽弁
僧帽弁は左心室の入り口にあって、左心房から左心室への血液の流れを制御しています。僧帽弁の異常によって左心室内の血液が左心房に逆流するようになった状態を僧帽弁逆流(または僧帽弁閉鎖不全)といいます。また、僧帽弁膜が固くなって開きにくくなった場合を僧帽弁狭窄といいます。狭窄と逆流が同時に起きることもあります。急に起きた僧帽弁逆流は、突然の呼吸困難を起こします。一方で長期間かけて徐々に悪化する逆流は、気づかないうちに心臓の収縮力を弱め、運動時の息切れや、夜間の呼吸困難、不整脈などが少しずつ悪化します。異常が見つかったら直ちに手術を必要とする状態なのか、しばらく経過を見た方が良いのかは患者さんそれぞれですが、最近では、より早期の、心機能が悪化しないうちでの手術を推奨する傾向にあります。
僧帽弁閉鎖不全症の手術は、弁を修復する手術(僧帽弁形成術)が主流です。しかし、形成術が困難な場合には僧帽弁置換術といって、人工弁に取り替える手術を行うこともあります。
2.大動脈弁
大動脈弁は、左心室の出口にあって、左心室から大動脈に向かう血液の流れを制御しています。大動脈弁疾患で多いのは、加齢に伴う大動脈弁狭窄症です。大動脈弁狭窄症になると、左心室から大動脈への血液の流れがうまくいかなくなるため、失神や、胸部の痛み、呼吸困難を起こしたりするだけでなく、心臓突然死の原因にもなります。加齢以外の大動脈弁膜症の原因としては先天性二尖弁があります。大動脈弁狭窄症に対する手術は人工弁置換です。
3.人工弁
壊れた弁を切除して新しい弁に取り替える時、人工弁を用います。人工弁は企業によってさまざまなものが開発されていますが、手術ではその中から患者さんに最適な種類と大きさのものを選択します。人工弁置換を行うにあたっての問題は、血栓形成と耐久性です。人工弁には機械弁と生体弁があり(図)、機械弁は、耐久性に優れていますが血栓ができやすいという欠点があります。一方生体弁は、牛の心膜や豚の弁から出来ている弁で、血栓は出来にくいものの、耐久性は劣り、10〜15年で劣化して再手術が必要になります。したがって年齢やライフスタイルなどによってどちらを植え込むか決めなければなりません。また、血栓のできやすい機械弁では手術後はワーファリンという血栓防止薬を生涯飲み続けなければなりません。ワーファリンは食品中に含まれるビタミンKによって効果がなくなりますので、納豆などビタミンKを多く含む食品は禁止になります。つまり、機械弁置換後は納豆を食べてはいけません(人工弁のタイプによる違いの図を参照)。
当院では年間概ね80人ほどが開胸による弁膜症の手術を受けています(図4)。
B.狭心症
心臓は心筋という筋肉からできていて、酸素と栄養を消費していますが、それらを供給しているのが冠動脈と呼ばれる血管です。動脈硬化によってこの血管が詰まってしまうと、狭心症や心筋梗塞などを引き起こします。この様な状況を改善するには狭くなった血管を広げたり、別の血管をつないで血液を送るルートを確保したりします。このうち別の血管をつなぐ手術のことを冠動脈バイパス術と言います。心臓外科で行うのが冠動脈バイパス術で、内胸動脈や大伏在静脈などの、患者さん本人の血管を使って別ルートを作成します。
図5は、当院における単独冠動脈バイパス術(弁膜症や大動脈の手術と一緒に行わない冠動脈だけの手術)の手術数の推移です。

C.大動脈瘤の手術
心臓から直接出ている太い血管を大動脈と言い、途中で枝分かれして臓器への血流路となります。大動脈のうち、横隔膜より上にあるものを胸部大動脈、横隔膜から下にあるものを腹部大動脈といいます。
手術が必要な大動脈の疾患は、動脈瘤や大動脈解離です。大動脈が拡張して太くなったものが大動脈瘤で、その多くは、破裂する直前まで無症状です。手術は破裂する前にそれを予測して行います。大きさは、55-60 mmがだいたいの目安です。遺伝が関与している動脈瘤は、大きさが小さいうちに手術を行うこともあります。また、小さな動脈瘤でも袋状に突出する形の悪い動脈瘤は、破裂の危険性が高いとされていて、早期の手術をすすめることもあります。
これに対し、急性大動脈解離は、突然発症し危機的状態をもたらす大動脈の異常です。多くは高い血圧にさらされた結果、大動脈が内側から裂けて破裂したり、血管の分岐を閉塞したり、急激な弁膜の異常をもたらすなど緊急対応が必要となります。
大動脈瘤に対するステント治療は今日ではもはや新しい治療法ともいえないほど普及してきました。以前の様に開胸や開腹をしなくても、末梢血管からカテーテル越しに人工血管を挿入して動脈瘤を内側から塞いでしまうこの方法によって、体にあまり負担をかけることなく治療できる様になったわけです。ただし、動脈瘤のすぐ近くに重要臓器への血管分岐がるような場合はステントをおくことができません。また、大動脈の蛇行や狭窄が著しい場合にはカテーテルが挿入できないため、この場合も実施不可能です。
当院の年間大動脈瘤手術数は、胸部大動脈瘤に対する開胸手術は10例前後です(図6)。腹部大動脈瘤に対する開腹手術は15例前後です(図7)。


また、血管内ステント治療は胸部と腹部合わせて40例前後です(図8)。
