心臓血管外科の紹介 Surgery
運営方針について
心臓並びに血管病に対して先端医療が行えるように、専門の循環器内科医師、心臓血管外科医師をはじめ、専門の看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学士、理学療法士が協力し合って診断と治療に当たります。
また、設備としては、生理検査室(心臓超音波装置、トレッドミル運動負荷装置、ホルター心電図)、冠動脈CT装置、心臓核医学検査装置、心臓病専用集中治療室、心臓血管造影装置、心臓血管外科手術室、心臓リハビリテーション室が備えられています。
心臓の手術について
昔は、心臓は触ってはいけない臓器と考えられていました。その後、傷をつけた心臓を縫合して生存できることが 動物実験で示されるようになり、心臓に対する外科手術は、ナイフによる刺し傷や銃による貫通創などの、心臓外傷を 対象に行われるようになりました。表面からたった2cmのところにある心臓に到達するのに2000年かかったと言われる所以です。最初の心臓手術成功例は 1896年にドイツのレーン(Ludwig Mettler Rehn )によって行われた右心室外傷の縫合手術とされています。
一方、心臓とは切っても切れない関係にある血管の手術は、カレル(Alexis Carrel, 1873-1944)によって開発され、これによりカレルはノーベル賞を受賞しています。
人工心肺について
これらの手術が行われた時代、現在ではあたりまえになっている人工心肺はまだ存在しませんでした。人工心肺を用いた始めての手術成功例は1953年(昭和28年)にギボン(John H. Gibbon, 1903-1973)によって行われた手術です。
これは、左心房と右心房の間の壁に、生まれつき開いていた欠損口(心房中隔欠損症)を閉じる手術でした。人工心肺の 開発には、大西洋単独横断飛行の、あのリンドバーグも携わりました。このように、人工心肺を用いた心臓外科が始まって から今年(2013年)で60年、やっと還暦を迎えたところです。
人工心肺の原理は、おおざっぱに言えば、心臓と肺の働きを、器械に代用させるということで、実際には静脈から抜き 取った血液を酸素化して動脈に返す装置です。多くの心臓手術は心臓を停止させたうえで行われますので、人工心肺の発明により、 心臓停止中の体の血液循環が維持出来るようになり、手術が安全なものとなりました。
人工心肺はギボンの時代から目覚ましい発展を遂げ、今ではより性能の良いものが手に入るようになりました。しかし、完全なものにはまだほど遠く、人工心肺駆動中に起きる血液の破壊や炎症反応の誘発、血液凝固の問題など解決すべき問題はたくさんあります。
そもそも、人間の体の複雑な機能を器械に完全に代用させることなど永遠に不可能と考えておいたほうがいいかもしれません。一方で、心臓を停止させなくても出来る手術においては、人工心肺が必要ありませんので、それに伴う合併症を減らすことが出来ます。人工心肺不使用による心拍動下冠動脈バイパス術がそれです。昨年行われた天皇陛下の冠動脈バイパス手術の際に、これがおこなわれたことは記憶に新しいところです。
弁膜症の手術について
ところで、心臓の手術の一つに弁膜症に対する手術があります。一昔前までは、弁膜症と言えばリウマチ熱感染後数十年経過して生じるリウマチ性弁膜症が主でした。例えば僧帽弁狭窄症では、弁が硬く癒合して動かなくなるため、心臓の中で血液がうまく流れなくなり、呼吸困難などの症状が出現します。このような場合には、傷んだ弁を切り取って、代用弁に取り替える必要があります。世界で始めての僧帽弁置換手術は 1960年(Braunwald)に行われました。
はじめの頃は死亡率も高い危険な手術でした。そもそも代用となる弁そのものの性能が悪かったこともあって、安全な弁置換術が行われるようになるまでには、壊れにくくて性能の良い弁の開発を待たなければなりませんでした。
今日では、機械弁では耐久性は確立されていますが、手術後に血栓を防止する薬を一生飲み続ける必要があります。一方で、ウシの心膜や豚の大動脈弁を使って作成した生体弁という代用弁があり、こちらは血栓予防の薬は飲む必要がありません。しかし、耐久性にやや難があって、将来再手術を必要とすることがあります。弁置換手術では患者さんの年齢や社会背景などを考慮しながら、使用する弁を選択していただいています。
近年ではリウマチ熱に伴う弁膜症が減少し、変性による僧帽弁逆流や加齢に伴う大動脈弁硬化などが手術の対象となることが多くなりました。また、心筋梗塞などの虚血性心疾患にともなって生じる僧帽弁閉鎖不全症も増えてきました。変性や虚血性心疾患に伴う僧帽弁逆流に対しては、弁を取り替えることなく、患者さん自身の弁を修理して逆流を抑える手術を行うことにより、耐久性と抗血栓性を 兼ね備えた治療が可能になると考えており、当院でも積極的に実施しております。
大動脈瘤について
心臓病に加えて、心臓血管外科が取り扱う疾患には、大動脈瘤があります。心臓のすぐそばの大動脈に亀裂がはいったり、こぶの様に大きくなったりして破裂するおそれが出てきますと、手術を行わなければなりません。場合によっては本当に破裂してしまい、緊急に手術が必要となることもあります。このような場合には、血液の流れを一旦止めてから、人工血管に取り替える手術を行います。
「取り替える」とは、病的血管部分を切り開き、まさにその昔カレルが行ったのと同じように、患者さんの血管と、人工血管を縫合してつなぐということです。器具や手術材料の飛躍的進歩はあるものの、心臓血管外科医が行っていることは、基本的には昔と変わっていない部分も多々あるということの一例でしょう。
血管内ステントグラフト治療について
胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤は、以前は胸やおなかを大きく切り開かなければ手術できませんでした。しかし、この手術は患者さんへの負担が大きいため、体力のない高齢者や、肺合併症などの併存症がある患者さんなどでは手術自体が不可能な場合もありました。切開をできるだけ小さくし、X線を駆使しながら血管内に人工血管を挿入して動脈瘤を処置する方法が開発され、より患者さんに優しい手術として導入されてきています。
挿入した人工血管は、ステントと呼ばれるバネの力で血管内に固定されます。この血管内ステント治療は、宮崎県では従来宮崎大学病院で行っていましたが、当院でも行うことができるようになりました。今後、動脈瘤治療の幅が大きく広がることが期待できます。
患者さん一人一人疾病や併存疾患の状態が違います。そもそも体格そのものから考え方、社会背景も違います。わたしたち心臓血管外科ではそれぞれの患者さんが最適な治療を受けることができ、元気に社会復帰できるということを第一に考えて治療にあたっております。