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米国臨床留学(綾部健吾) UsRyugaku

宮崎市(宮崎西高等学校)の出身で2004年に東京の大学を卒業し、いくつかの病院で研修をした後に、2022年4月より当院循環器内科で勤務を開始しました。卒業後、米国で合計6年間の臨床研修を受けました。その経験をこの場をお借りし述べたいと思います。

1.Educational Commission for Foreign Medical Graduates (ECFMG)  certificateを取得するまで

外国で臨床研修をする場合には、日本の医師免許のみで通用する国もあります。その一方で、米国の場合にはUnited States Medical License Examination (USMLE)と呼ばれる試験に合格する必要があります。USMLEは、基礎医学分野のSTEP1、臨床医学分野のSTEP 2 CKという2つのmultiple choice questionsならびにSTEP2 CSというOSCEで構成されています。

私は、医学部6年生の時にSTEP1に合格し、医師として働き始めた後にSTEP2 CK、STEP2 CSに合格し、卒後5年目にECFMG certificateを取得しました。
試験のための勉強時間はそれなりに必要となるため、臨床留学を考えている場合には、やはり医学部生時代から計画を立てて準備をしていくことが望ましいと思います。以前のUSMLEは合格・不合格だけではなく、得点も表示され、試験の点数自体も採用時に重視されました。そのため、できるだけ高得点で合格する必要があり、しっかりと勉強して試験を受ける必要がありました。

しかしながら、2022年4月現在、試験結果は合格か不合格かのみで判定されることとなり、また、COVID-19の影響でOSCEであるSTEP2 CSは廃止となりました。COVID-19の蔓延が試験自体を廃止に追い込んだことも大きな驚きです。STEP2 CSは英語力を評価する側面もありましたが、その部分は、後述の就職面接で代用されることになりました。

2.試験に合格してから採用されるまで

日本人がUSMLEに合格したとしても、すぐに米国での臨床研修に入れるわけではありません。日本でマッチング制度が導入されるはるか昔から、米国ではマッチング制度が導入されていました。米国人医学部生も、医学部6年生の9月~11月(米国でのAcademic yearは7月開始)に様々な病院に面接に行き、翌年3月にマッチング先がWeb上で発表されます。

日本人応募者も同様の面接旅行に行く必要がありますが、今はCOVID-19の影響でweb面談が増えたとは言え、日本からアメリカに行って面接を受けることは経済的にも時間的にも容易ではありません。日本人が米国レジデンシーに応募する際には、①英語力、②Visaの問題、③米国での病院実習経験がないという3点も大きなハンデキャップとなります。

そういった障壁を少しでも減らすために、東京海上日動メディカルサービス株式会社が主催するN programと呼ばれる留学プログラムがあります。留学の担当責任者である西元 慶治先生(都城市出身)のご尽力で、多くの日本人医師が米国での臨床留学の夢をかなえています。詳しくは、以下のサイトをご覧下さい。(https://www.tokio-mednet.co.jp/company/nprogram.html

N programに応募すると、日本で面接・試験を受けることが出来、無事に合格すればニューヨークにあるMount Sinai医科大学の関連病院で臨床研修を受けることが出来ます。私自身も、このN programのおかげで、ニューヨークでの内科インターン生活を開始することが出来ました。

3.米国での臨床

ニューヨーク(Beth Israel Medical Center)で2年間のインターンと内科レジデント、インディアナポリス(Indiana University)で3年間の麻酔科レジデント、ロサンゼルス(Cedars-Sinai Medical Center)で1年間の集中治療フェローを経験しました。

現在、日本と米国で臨床レベルの差というものはあまりなく、前述のUSMLEと呼ばれる資格試験を受け、英語で大きな苦労をしてまで米国臨床研修を行うという意義は少なくなっているかもしれません。したがって、なぜ臨床留学を目指すのか問いに対しては、個々人が答えを用意する必要があります。

私自身は、日本での循環器研修をしながらも、米国で麻酔科・集中治療研修を行った意義は2つありました。

1点目は、多彩な症例を経験できたことです。インディアナポリスにあるインディアナ大学での麻酔科研修では、大学病院、小児病院、在郷軍人病院などの5つの病院をローテーションすることでバランスの良い研修が出来ました(下記写真)。そして、人種、体格、思想などが様々である米国では、体重 180kgの超肥満症例の妊婦の無痛分娩、教科書でしか見たことがない鎌状赤血球のAfrican Americanの腹痛のペインコントロール、銃で胸を撃たれた若者の緊急手術の麻酔など、日本では経験できない症例を担当することもしばしばありました。
2点目は、毎日朝から夜まで病院で過ごし、様々な疾患、考え方の患者や患者家族と話し、宮崎では経験しないよう豪雪などの日々の生活を経験することで(下記写真)、米国の実情を肌で感じ、日本との違いを認識し、医師としてだけではなく人間として受容できる幅が広がりました。

4.米国での臨床研修を終えて

米国での臨床研修を終え、専門医資格を取得した後は、米国にそのまま残る、あるいは日本に戻るという2つの選択肢があります。米国は、レジデント、フェローのトレーニングの期間は安月給ですが、トレーニングを修了して専門医資格を取得した後は、給与が6倍程度に跳ね上がります。

したがって、米国で臨床研修を修了した大多数の外国人医師は米国に残る道を選びます。日本人の場合には、米国にそのまま残る医師も多いですが、その一方で、日本に何らかの形で戻って仕事をしようと考える医師が多い印象があります。その点において、他の国と日本は異なり、日本に戻りたいと感じるくらいに魅力的な母国であることが、日本の強みであると思います。私も、米国麻酔科・集中治療専門医を取得した後は、東海大学に戻り、循環器内科医として仕事をしておりました。

最後に、今こうして出身地である宮崎に戻り、宮崎市郡医師会病院で仕事が出来ることは幸運であり、米国での経験も生かしつつ、宮崎の地域医療に精進したいと思っています。

綾部健吾

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