主な循環器疾患について

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)

心臓は、酸素と栄養を含んだ血液を24時間休むことなく全身に送り続けています。しかし、心臓自体も他の臓器と同様に、血液がなければ正常に働くことができません。そのため、心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を供給する冠動脈という血管があります。この冠動脈が狭くなったり、詰まったりすることで引き起こされる病気を虚血性心疾患といいます。

虚血性心疾患の中でも、冠動脈が部分的に狭くなり、胸の痛みが一時的に現れる病気を狭心症(図1)、突然、冠動脈が完全に詰まり、心筋が壊死してしまう病気を心筋梗塞(図2)といいます。心筋梗塞の死亡率は、適切な治療が行われない場合、30%を超えるとされており、迅速な対応が極めて重要です。

当院では、急性心筋梗塞の患者さんに対して、24時間体制で心臓カテーテル治療を行っており、最適な治療を迅速に提供できる体制を整えています。

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微小循環障害 (CMD:Coronary Microvascular Dysfunction)

冠動脈は、心外膜冠動脈と呼ばれる太い冠動脈 (約5%) と冠微小血管 (約95%) から構成されています。冠動脈造影検査で評価可能な血管は約5%の太い冠動脈のみであり、残りの微小冠動脈は冠動脈造影検査のみでは評価ができません。

しかし微小冠動脈血管の障害により、安静時や労作時に出現する胸部違和感 (胸痛や胸部絞扼感) が出現する疾患が昨今注目されており、冠微小循環障害 (CMD) と呼ばれます。下記に説明するMINOCAやINOCAの原因の一つとされます。冠動脈造影検査の際に圧センサー付ガイドワイヤーを使用することによって微小血管の機能を評価することで診断されます。

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INOCA (Ischemia with non-obstructive coronary artery disease)

INOCA (冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血) とは、狭心症に相当する典型的な胸部症状があるにも関わらず冠動脈造影検査や心臓CT検査により器質的な狭窄を認めない疾患の総称です。INOCAによる心筋虚血の2大成因は、冠攣縮と冠微小循環障害 (CMD) であり、薬物療法を始めとし、生活習慣の改善や危険因子の管理が重要です。

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2023 JCS/CVIT/JCCガイドラインフォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療より

MINOCA (Myocardial infarction with non-obstructive coronary artery disease)

MINOCA (冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞) とは、心筋梗塞の徴候がありながら、冠動脈造影検査で器質的な有意狭窄を認めない病態の総称です。

広義には、冠動脈疾患以外の心臓疾患や非心臓疾患も含まれますが、狭義には動脈硬化性冠動脈粥腫 (プラーク) の破綻やびらん、冠攣縮、冠微小循環障害 (CMD)、冠微小血管攣縮、特発性冠動脈解離 (SCAD)、冠動脈に及ぶ大動脈解離、冠動脈塞栓症、冠動脈Slow flowなどが上げられ、INOCAの原因であった冠攣縮や冠微小循環障害 (CMD) もMINOCAの原因の一つとされます。INOCAと同様に薬物療法を始めとし、生活習慣の改善や危険因子の管理が重要です。

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2023 JCS/CVIT/JCCガイドラインフォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療より

不整脈

不整脈とは、心臓の拍動リズムが正常ではない状態を指します。通常、心臓は規則正しく拍動し、全身に血液を送り出していますが、不整脈が起こると拍動が速すぎたり(頻脈)、遅すぎたり(徐脈)、不規則になったりします。

不整脈にはさまざまな種類があり、

  • 期外収縮(きがいしゅうしゅく):拍動が一回だけ早く起こる
  • 心房細動(しんぼうさいどう):心房が不規則に震えて正常に拍動できない
  • 心室頻拍(しんしつひんぱく)や心室細動(しんしつさいどう):命にかかわる重症なリズム異常

などがあります。

症状は、動悸、息切れ、めまい、失神、胸の違和感など多様です。なかには、症状がほとんどないまま進行し、脳梗塞や心不全、突然死につながるタイプの不整脈もあります。

治療法は、不整脈の種類や重症度によって異なり、

  • カテーテルアブレーション(原因となる部位を焼灼する治療)
  • ペースメーカーや除細動器(ICD)の植込み

などを組み合わせて行います。

当センターでは、最新の診断機器と治療技術を駆使して、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供しています。

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心筋症

心筋症とは心機能障害を伴う心筋疾患と定義される様々な疾患の総称です。

心機能障害とは、心臓が本来担っているポンプ機能が低下することや不整脈の出現によって循環動態の恒常性を維持できない状態をさします。遺伝性に心筋が変性する病態や後天的に生活習慣が影響する病態、その両方が合わさった病態など多岐に渡ります。肥大型心筋症や拡張型心筋症は関与する遺伝子の一部が明らかとされた疾患です。

心アミロイドーシスや心ファブリー病は代謝不全による蓄積疾患ですが、現在、症例に応じて治療薬があるため,現在積極的に検査を行なっています。心筋症はポンプ機能低下によって心不全をきたし、息切れや浮腫を自覚し、不整脈がきっかけで見つかることがあります。

多くは進行性の病態であり、薬物治療を行いますが、致死的不整脈のリスクが高い患者さんには植え込み型電気的除細動などの非薬物治療を必要とすることがあります。当院ではまず診断のために必要な検査を行い、病態が重篤な場合には補助循環装置を用いた集中治療を検討します。

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弁膜症
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心臓は、収縮と拡張を繰り返すことで、全身に血液を送り出すポンプのような働きを担っています。心臓には4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)があり、血液が一方向に正しく流れるように、それぞれの部屋の間には「弁(ドアのような構造)」があります。これらの弁には、三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁の4種類があり、血液の逆流を防いでいます。

これらの弁の機能に障害が起こる状態を「心臓弁膜症」と呼びます。原因としては、生まれつきの異常、加齢による変性、感染症などがあり、弁が壊れたり変形したりすることで発症します。

弁膜症には2つのタイプがあり、弁の開きが悪くなり、血液が流れにくくなる「狭窄症」と弁のうまく閉まらず、血液が逆流する「逆流症(閉鎖不全症)」があります。弁膜症は、その重症度によって症状や治療方針が異なります。健診で心雑音を指摘され、偶然見つかる人もいれば、進行することで心臓の変形、不整脈、心不全を引き起こす場合もあります。

定期的な経過観察や内服治療、外科的治療(開心術)、カテーテル治療などの治療選択肢があります。症状がない場合でも進行していることがあるため、専門の施設での診断・治療をおすすめします。

大動脈疾患
大動脈は、心臓から全身に酸素を送る血液を送り出す、最も太く重要な血管です。この大動脈に発生する代表的な疾患が「大動脈瘤(りゅう)」と「大動脈解離」です。いずれも命に関わる危険な病気であり、早期の発見と治療が非常に重要です。
大動脈瘤とは、大動脈の壁の一部が拡張し、コブのようにふくれてしまう病態です。自覚症状に乏しいことが多く、健康診断や他の病気での画像検査で偶然発見されることもあります。しかし、瘤が一定の大きさ(一般に胸部で5.5cm、腹部で5.0cm以上)に達すると、破裂の危険性が高まり、破裂した場合は約半数が救命できないとされる非常に重篤な疾患です。
大動脈解離は、大動脈の内側の膜(内膜)に亀裂が入り、そこから血液が流れ込んで大動脈の壁の中に"もう一つの血液の通り道"を作ってしまう状態です。突然の激しい胸痛や背部痛で発症し、適切な診断と治療が遅れると致命的となる可能性があります。大動脈解離には、緊急手術が必要なStanford A型と、まず内科的治療から開始するStanford B型があり、病態に応じた迅速な判断が求められます。
これらの疾患の主な危険因子には、高血圧、動脈硬化、喫煙、家族歴、加齢、そしてマルファン症候群などの遺伝性結合組織疾患が挙げられます。また、感染や外傷が原因となる場合もあります。
当院では、これらの大動脈疾患に対して、循環器内科、心臓血管外科が密に連携し、24時間体制での診療を行っています。軽度の瘤や解離に対しては内服治療や定期的な画像フォローアップを行い、手術適応となる症例には、ステントグラフト内挿術(TEVAR/EVAR)人工血管置換術といった侵襲的治療を提供しています。さらに、急性期を乗り越えた後も、継続的な血圧・脂質管理や再発予防のためのフォローアップ体制を整えています。
大動脈疾患は早期発見・早期対応が何より重要です。胸痛や背部痛などの症状がある場合、あるいはご家族に大動脈疾患の既往がある場合は、どうぞお早めにご相談ください。
静脈血栓塞栓症(VTE)

静脈血栓塞栓症(VTE)とは、足の静脈に血栓ができる深部静脈血栓症(DVT)と、血栓が肺に飛んでしまう肺血栓塞栓症(PE)を合わせた病気の総称です。

深部静脈血栓症(DVT)とは

足の深い静脈に血栓(血のかたまり)ができ、次のような症状が現れます。

  • ふくらはぎや太ももの腫れ
  • 押すと痛みや違和感がある
  • 赤みや熱感(皮膚が熱くなる)
肺血栓塞栓症(PE)とは

足などでできた血栓が血流に乗って肺に詰まることで起こります。

  • 胸の痛み
  • 呼吸困難(息苦しさ)
  • 動機や息切れ
  • 突然の失神

※重症の場合、命にかかわることもあります。

治療方法
  • 抗凝固療法(血液をサラサラにする薬)が基本となります。
  • 病状に応じて
    1. 血栓溶解療法(血栓を溶かす)
    2. カテーテル治療(血栓の吸引・破砕)

治療後も定期的な外来フォローアップで再発防止と安心な管理を行っています。

閉塞性動脈硬化症

動脈硬化とは血管の壁にコレステロールなどの脂質が沈着し、進行してくると血管の内腔が徐々に狭くなり(狭窄)、詰まってしまう(閉塞)病態です。動脈硬化は全身の動脈に生じますが、腹部大動脈を含めた四肢への動脈(特に下肢動脈)に起こり、閉塞性動脈硬化症と称しています。
近年、日本でも食生活、生活様式の欧米化、糖尿病・透析患者の増加、平均寿命の延長による高齢化などにより、閉塞性動脈硬化症に罹患する患者さんが増加してきています。

閉塞性動脈硬化症の症状は、血管が狭くなり、詰まってしまうことで血流が悪化することで様々な症状が起こります。閉塞性動脈硬化症の病期は以下のようにⅠ〜Ⅳ期に分けられており、病期によって症状が異なります。

  • Ⅰ期:しびれ、冷感
  • Ⅱ期:間欠性跛行(はこう):一定距離を歩くと、足(太ももやふくらはぎ)が痛み、休むとまた歩けるようになる症状
  • Ⅲ期:安静時疼痛:安静にしていても足に痛みが生じる
  • Ⅳ期:潰瘍、壊疽:血液が足の先に行かないため、足に潰瘍ができ、進行すると足が腐って細菌感染を起こしてしまう(壊疽)

糖尿病などの基礎疾患がある場合は、症状がなくとも動脈の狭窄が進行するため、注意が必要です。
また、Ⅳ期(潰瘍、壊疽)の状態で細菌感染を併発すると、血流が悪いため、足の壊死が進行してしまい、下肢切断が必要となり、全身に波及すると敗血症(菌血症)となってしまい、致命的になることがあります。

下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染を合併すると肢切断リスクをもち、一年死亡率は25-30%程度まで達するとされています。


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心不全

心不全(しんふぜん)とは、「心臓の力が弱くなり、体に必要な血液を十分に送り出せなくなった状態」のことをいいます。病気の名前のように聞こえるかもしれませんが、実際には「状態・症状」を表す言葉です。心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしていますが、その働きが弱まると、体のいろいろな部分に支障が出てきます。

心不全の主な症状
  • 息切れ:少し動いただけで苦しくなる、横になると息がしづらい
  • むくみ:足や手、顔などがむくむ
  • 疲れやすい:以前よりも体がだるく、すぐに疲れる
  • 体重の急な増加:数日で体重が2~3kg増えることも

これらは、心臓のポンプ機能が低下して体内に水分がたまりやすくなっているサインかもしれません。

心不全の原因

心不全は、さまざまな心臓病が原因で起こります。

  • 高血圧:長い間、血圧が高いままだと心臓に負担がかかります
  • 心筋梗塞や狭心症:心臓を栄養する血管が詰まることで、心臓の筋肉が弱ってしまいます
  • 心臓弁膜症:心臓の弁がうまく開閉しないと、血液がスムーズに流れなくなります
  • 不整脈:心臓のリズムが乱れることで、効率よく血液を送り出せなくなります
  • 心筋症: 心臓の筋肉(心筋)の構造や機能に異常が生じ、心臓がうまく機能しなくなります
心不全は治るの?

「完治する病気」ではありませんが、適切な治療と生活習慣の見直しによって、症状を軽くし、普通の生活を送ることは可能です。病気の早期発見・早期治療が、将来の健康につながります。
心不全の患者さんには、『心不全手帳』を用いていただき、心不全と上手に付き合いながら、健やかな毎日を送って頂けましたら、幸いです。

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成人先天性心疾患 (ACHD)

先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管に構造的な異常がある病気をさします。医学の進歩により、多くの先天性心疾患は小児期に手術や治療を受けることで命をつなぐことが可能となりました。その結果、現在では日本でも先天性心疾患を持ったお子さんの約9割が成人期を迎えるようになり、「成人先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)」としての診療が重要になっています。

ACHD患者さんは、成長とともに心臓の状態が変化したり、過去に受けた手術の影響が現れたりすることがあります。また、妊娠・出産、高血圧や不整脈、心不全などの成人病との関わりも見逃せません。そのため、小児科から成人診療科への適切な移行(トランジション)と、長期的なフォローアップが非常に大切です。

代表的な成人先天性心疾患 (ACHD)
① 心房中隔欠損症(ASD:Atrial Septal Defect)

心房中隔に穴があいている疾患で、左心房から右心房への血液の流れ(シャント)が生じ、肺への血流が増えることで心臓や肺に負担がかかります。小児期は無症状のことが多く、成人になってから動悸、息切れ、右心不全、不整脈(特に心房細動)などの症状で発見されることがあります。診断には心エコー検査が有用で、治療はカテーテルを用いた閉鎖術や外科手術が行われます。

② 動脈管開存症(PDA:Patent Ductus Arteriosus)

胎児期に肺を通らずに血液を大動脈へ送る役割を果たす「動脈管」が、出生後も閉じずに残ってしまう疾患です。軽度では無症状のまま経過することもありますが、動脈管を通して肺へ過剰な血流が送られると、心不全や肺高血圧症の原因となります。成人期に発見された場合でも、カテーテルや手術によって閉鎖が可能です。

当院では、成人先天性心疾患に対し、循環器内科・心臓外科・小児科など多職種が連携し、適切な診断と長期フォロー体制を提供しています。ご自身やご家族のことで気になることがあれば、ぜひご相談ください。

心筋炎

心筋炎とは心筋を主座とした炎症性疾患であり、様々な病態が含まれる疾患群です。発症様式・時間経過により急性心筋炎、慢性活動性心筋炎、慢性心筋炎、慢性炎症性心筋症、心筋炎後心筋症に分類されます。

病因は感染性としてはウイルスが最多で、非感染性としては、薬物、ワクチンを含む化学物質、膠原病やサルコイドーシスなどの全身性疾患、過敏性反応、放射線などがあります。2019年以降、世界的な問題となっている新型コロナウィルス(COVID-19)に関連する心筋炎は、疾患そのもの、またはワクチンによる心筋炎に分けられます。心筋炎の臨床経過は、軽症で治療を要さない例から、高度に心機能が低下し、致死性不整脈を合併し、時に死に至る重症例まで様々です。

風邪のような症状が先行することが多く、数日から数週間の経過で心症状(胸痛、心不全、不整脈)が出現します。しかし、多くは特異的な所見に乏しいため、専門施設による診察、検査が重要となります。軽症であれば心筋炎が抗炎症薬や抗菌薬などの原因治療と心不全に対する対処療法で軽快します。しかしながら、心筋への炎症波及が急激で重篤な状態となった場合(劇症型)には、人工呼吸器、補助循環(インペラ(IMPELLA)、大動脈内バルーンパンピング(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS))などの集中管理を必要とします。心臓ポンプ機能が回復しない場合には補助人工心臓(VAD)植え込みや心臓移植を行わなければならない場合もあります。

当院では診断を行った後、状態に合わせた適切な治療を行います。時に補助人工心臓や心臓移植の適応である重症例と判断した場合には、他施設での治療につなげるため転院まで行います。

感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は、心臓の内膜(心内膜)や心臓弁に細菌が感染し、炎症を起こす病気です。血液中に入り込んだ細菌が原因となり、健康な人では発症することは稀ですが、特に虫歯や歯周病を持つ人、歯科治療や抜歯の後、点滴やカテーテル検査・治療の後、手術や外傷による皮膚の損傷の後で感染のリスクが高まります。また、心臓弁膜症を持つ人や人工弁を入れる手術を受けた人、生まれつきの心疾患を持つ人、糖尿病や癌(がん)治療中で免疫力が落ちている人にも発症しやすい傾向があります。

主な症状としては、発熱や全身倦怠感、食欲低下が挙げられますが、感染の進行に伴い、心臓弁が破壊されて心雑音が聴こえるようになって心不全を発症したり、細菌や血栓がとんで脳梗塞や腎梗塞などの塞栓症状、皮膚や指先に出血斑が生じたりします。早期診断・治療が鍵となります。血液中の細菌を検出する血液培養検査と心臓そのものを観察する心エコー図検査、全身を観察する造影CT検査などで診断をつけ、数週間にわたる抗菌薬での治療が必要となります。感染が重度に進行している場合は、感染巣を取り除いたり壊れた弁を修復したりするための開心術が必要になることもあります。予防のためには、常日頃からの口腔ケアと定期的な歯科検診を怠らないことが必要です。

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心臓腫瘍

心臓にできる腫瘍には、大きく分けて「原発性心臓腫瘍(心臓そのものに発生するもの)」と「転移性腫瘍(他の臓器のがんが心臓に転移してできるもの)」の2種類があります。このうち原発性心臓腫瘍は非常にまれで、全人口の0.02%未満と言われています。一方、がんで亡くなった方の約20%に心臓への転移が見つかるとも報告されています。
原発性心臓腫瘍には「良性」と「悪性」があり、約90%は良性です。最も多い良性腫瘍は「心臓粘液腫(しんぞうねんえきしゅ)」(図1参照)で、中年女性に多くみられます。良性腫瘍は無症状のこともありますが、大きくなると心臓の動きを妨げ、血栓を作って脳や肺に飛んでしまう危険もあるため、手術による切除がすすめられることがあります。

一方、悪性腫瘍は進行が早く、症状も重くなりやすい傾向があります。特に「心臓肉腫(しんぞうにくしゅ)」という種類は30~40代に発症することが多く、発見時にはすでに転移している場合も少なくありません。血管に関わる「血管肉腫」というタイプは、心臓の右側(右心房)にできやすく、心不全や不整脈、胸水貯留などを引き起こすこともあります。

診断には心エコー、CT、MRIなどの画像検査が用いられます。近年は検査技術の進歩により、より早期に発見されることも増えています。
治療法は、腫瘍の種類や広がりにより異なりますが、基本的には外科手術が第一選択です。ただし、悪性腫瘍では完全に切除できないこともあり、その場合は抗がん剤や放射線治療を組み合わせることもあります。まれではありますが、心臓以外への転移がなく、切除不能な場合には心臓移植が検討されることもあります。

心臓腫瘍は非常に珍しい疾患ですが、進行が早く命に関わることもあります。動悸や息切れ、原因不明の体調不良が続く場合は、早めに医師に相談し、必要に応じて心臓の検査を受けることが大切です。当センターでは、循環器・画像診断の専門医が連携して診療にあたっています。

図1:左房粘液腫のCT所見・エコー所見
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腫瘍循環器(Onco-Cardiology)について

癌(がん)医療の進歩により、多くの方が治療後も長く生活できる時代になってきました。しかしその一方で、癌の治療が心臓に影響を及ぼす可能性があることもわかってきています。
たとえば、抗癌剤の中には心臓の筋肉に障害を与え、不整脈や高血圧を引き起こす可能性がある薬剤があります。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療法も次々と登場しており、それに伴い心臓への影響も多様化しています。これらの心臓の副作用は「癌治療関連心機能障害(CTRCD)」という新しい病態として注目されています。

また、癌患者さんは血液が固まりやすくなる(血栓傾向)ことがあり、静脈や動脈の両方で血栓ができるリスクが高まります。これは心筋梗塞や脳梗塞、肺血栓塞栓症などの重大な病気につながることもあります。

さらに、もともと心臓に持病のある方が癌治療を受ける場合には、薬の種類や量の調整、治療計画の立案にもより慎重な配慮が必要となります。
こうした背景から、「腫瘍循環器(しゅようじゅんかんき)」という新しい医療分野が生まれました。英語では「Onco-Cardiology(オンコ・カーディオロジー)」と呼ばれ、癌と心臓の両面から患者さんを支える総合的な医療を提供する領域です。

当院では、高い水準で循環器治療を実践しており、他施設のがん専門医との密な連携を保ちながら、癌治療中や治療後も心臓の健康を守るための体制を整えています。癌治療中の動悸、息切れ、胸の違和感といった症状が気になる方、治療前に心臓について不安のある方など、どんなことでもお気軽にご相談ください。