心臓にできる腫瘍には、大きく分けて「原発性心臓腫瘍(心臓そのものに発生するもの)」と「転移性腫瘍(他の臓器のがんが心臓に転移してできるもの)」の2種類があります。このうち原発性心臓腫瘍は非常にまれで、全人口の0.02%未満と言われています。一方、がんで亡くなった方の約20%に心臓への転移が見つかるとも報告されています。
原発性心臓腫瘍には「良性」と「悪性」があり、約90%は良性です。最も多い良性腫瘍は「心臓粘液腫(しんぞうねんえきしゅ)」(図1参照)で、中年女性に多くみられます。良性腫瘍は無症状のこともありますが、大きくなると心臓の動きを妨げ、血栓を作って脳や肺に飛んでしまう危険もあるため、手術による切除がすすめられることがあります。
一方、悪性腫瘍は進行が早く、症状も重くなりやすい傾向があります。特に「心臓肉腫(しんぞうにくしゅ)」という種類は30~40代に発症することが多く、発見時にはすでに転移している場合も少なくありません。血管に関わる「血管肉腫」というタイプは、心臓の右側(右心房)にできやすく、心不全や不整脈、胸水貯留などを引き起こすこともあります。
診断には心エコー、CT、MRIなどの画像検査が用いられます。近年は検査技術の進歩により、より早期に発見されることも増えています。
治療法は、腫瘍の種類や広がりにより異なりますが、基本的には外科手術が第一選択です。ただし、悪性腫瘍では完全に切除できないこともあり、その場合は抗がん剤や放射線治療を組み合わせることもあります。まれではありますが、心臓以外への転移がなく、切除不能な場合には心臓移植が検討されることもあります。
心臓腫瘍は非常に珍しい疾患ですが、進行が早く命に関わることもあります。動悸や息切れ、原因不明の体調不良が続く場合は、早めに医師に相談し、必要に応じて心臓の検査を受けることが大切です。当センターでは、循環器・画像診断の専門医が連携して診療にあたっています。
図1:左房粘液腫のCT所見・エコー所見

腫瘍循環器(Onco-Cardiology)について
癌(がん)医療の進歩により、多くの方が治療後も長く生活できる時代になってきました。しかしその一方で、癌の治療が心臓に影響を及ぼす可能性があることもわかってきています。
たとえば、抗癌剤の中には心臓の筋肉に障害を与え、不整脈や高血圧を引き起こす可能性がある薬剤があります。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療法も次々と登場しており、それに伴い心臓への影響も多様化しています。これらの心臓の副作用は「癌治療関連心機能障害(CTRCD)」という新しい病態として注目されています。
また、癌患者さんは血液が固まりやすくなる(血栓傾向)ことがあり、静脈や動脈の両方で血栓ができるリスクが高まります。これは心筋梗塞や脳梗塞、肺血栓塞栓症などの重大な病気につながることもあります。
さらに、もともと心臓に持病のある方が癌治療を受ける場合には、薬の種類や量の調整、治療計画の立案にもより慎重な配慮が必要となります。
こうした背景から、「腫瘍循環器(しゅようじゅんかんき)」という新しい医療分野が生まれました。英語では「Onco-Cardiology(オンコ・カーディオロジー)」と呼ばれ、癌と心臓の両面から患者さんを支える総合的な医療を提供する領域です。
当院では、高い水準で循環器治療を実践しており、他施設のがん専門医との密な連携を保ちながら、癌治療中や治療後も心臓の健康を守るための体制を整えています。癌治療中の動悸、息切れ、胸の違和感といった症状が気になる方、治療前に心臓について不安のある方など、どんなことでもお気軽にご相談ください。